***
月光裂く塔の影
漆黒の髪が風に揺れる
青白き肌に宿る千年の孤独
誘惑と哀しみの狭間で
時は静かに流れていく
純粋なる愛が
織り返す運命を変える
血色の夜に咲く花よ
二人の永遠が始まる
***
ある夜の街で、月明かりに照らされた歪んだ塔の影から、ひとりの女が現れる。
青白く輝く肌は白い大理石のごとく冷たく、長い黒髪は乱れながらも妖艶に揺れる。
その瞳は魂の奥底を暴き、微笑む口元には甘美な誘惑と微かな哀しみが宿っていた。
その美しさは、人を魅了し、同時に恐怖を感じさせた。
彼女のそばにいると、血を吸われても構わないとすら思わされるほどの魔力があった。
彼女は夜に生きる、美しくそして恐ろしい存在、バンパイアだった。
彼女が血を吸い、命を奪った者は数知れず。
それは生きるための儀式であり、数百年の孤独を埋めるための贖罪でもあった。
彼女を求め近づいてきたのは、その美貌や不老不死を求める欲望に囚われた浅き魂ばかり。
どれほど血を啜ろうとも、彼女の虚無は満たされることはなかった。
ある夜、ひとりの青年が現れる。
彼は彼女の美しさに溺れず、その内なる孤独と哀しみを見つめた。
彼女に会いに塔を訪ねるたび、彼の瞳にはただ静かな想いが灯る。
彼女は戸惑い、そして気づく。
初めてその純粋な存在に心を揺さぶられる自分に。
彼は彼女の正体を知りながら、恐れることなく側にいることを選んだ。
牙が頸筋に触れた瞬間、青年は、痛みではなく、至福の感覚に包まれる。
彼女は初めて奪うのではなく、愛をもって血を分けた。
そして彼を不老不死へと導いた。
青年は安堵の表情を浮かべる。
これで二人は永遠に寄り添うことができると。
それから二人の姿は夜霧と共に消えた。
彼らの愛の伝説は風に溶け、時の流れを超えて語り継がれていった。