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蒼き闇に抱かれて
月の影が揺らめく時
静寂の波が囁くのは
遥かなる記憶の灯
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彼女は「ルナリア」と呼ばれていた。その名は、夜空の淡い光を思わせる髪の色に由来するが、彼女の存在そのものが月のように神秘的で、どこか遠い印象を与えていた。
深海の闇の中で、彼女の姿は独特の輝きを放っていた。肌は透けるような白さで、まるで水底から浮かび上がる幽霊のようだが、彼女の動きには生命力が宿っていた。緑青色の模様が絡む体は、彼女を守る鎧であり、同時に彼女自身が育む小さな世界でもあった。それは深海との絆を象徴し、彼女の体温という生命の火種で輝いていた。
側頭部には深海生物が宿り、彼女の心と繋がっていた。その微細な発光は彼女にとっての言葉であり、感情だった。彼女はその光を使って海底都市の仲間たちへ無音の歌を紡ぎ、その波紋は遥か彼方まで届いていく。もし危険が迫れば、仲間たちは鋭い警告音を発し、相手を混乱させる。彼女の力は古から受け継がれ、深海という過酷な環境で命を守る術でもあった。
彼女の周囲には、透明な傘を広げた幻想的な生き物たちが寄り添っていた。それらは彼女の灯台であり、孤独な深海での友でもあった。その淡い光は、彼女が進むべき道を示し、不安を静めることもあった。
ある日、彼女は深海都市の外れにある沈没船を見つけた。朽ち果てた船体は、かつて地上の人々が築いたものの残骸だった。彼女の祖先たちが歩んだ土地への記憶は失われていたが、その血は彼女の中に流れていた。そっと触れると、船体が震えるように感じられた。それはおそらく幻覚だったが、彼女は確信した。この船にはまだ語るべき物語があるのだと。
ルナリアは慎重に船内に潜り込んだ。錆びついた鋼鉄の壁は崩れかけていたが、一つの部屋だけは不思議と保存状態が良かった。そこには空気が残っており、海水が侵入していなかった。部屋の隅に散乱した家具の中で、彼女の目を引いたのは壁に掛けられた一枚の額縁だった。
その中には、金色の麦畑と青い空、白い雲が描かれた絵画があった。色褪せていないその絵は、地上の風景だった。彼女はじっと絵を見つめ、胸に暖かな感覚が広がるのを感じた。それは深海では味わえない懐かしさだった。
ルナリアは絵を丁寧に抱え、海水から守るために体を覆う海藻の膜をさらに密にし、絵を深海都市へ持ち帰った。彼女は広場で仲間たちにその絵を見せた。「これを沈没船で見つけました。」彼女の言葉は光の波紋となり、周囲に静寂が広がった。
「これが地上の光景か?」
「金色の海藻はゴルデアンかな?綺麗だ。地上にもあるのか?」
「それはゴルデアンじゃない、陸の植物だよ。」
「あの空の青さは信じられない。水が全然ない場所で私たちの祖先は生きていたのか。」
人々の瞳には驚きと敬意が浮かんでいた。ルナリアは続けた。「私たちは深海で生まれた存在ですが、地上に根ざす過去を持っている。この絵は、それを思い出させてくれています。」
その瞬間、水晶の構造体が虹色の光を放ち始めた。それは彼女の言葉に応えるようだった。「この絵は私たち全員の宝物だ。大切に保管しよう。」誰かがそう言った。ルナリアは微笑み、彼女の探求心が仲間たちに共感を呼び起こしたことを感じた。
絵画は都市の中心に安置され、人々が集まり始めた。それは地上への憧れではなく、自分たちの根源を探る手がかりとなった。
その後もルナリアは深海を旅し続け、沈没船や古代の遺跡を探索していった。彼女が得た知識や物語は、仲間たちへと共有され、彼女の瞳には希望の光が常に輝いていた。
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沈黙の海に咲く光
彼女の瞳に映る未来
忘れられた物語が
今、新たな命を得る
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