— ルシア・ヴェルデの肖像 —
【作品解説】
この肖像画は、王国の危機を救った伝説の英雄、ルシア・ヴェルデを描いたものである。彼女は「魔女」と蔑まれながらも、その力をもって王国を守り抜き、英雄として名を刻んだ。しかし、その力の正体を彼女自身が知るのは、運命の日の出来事だった。
【孤独な少女と封じられた瞳】
ルシアは、ヴェルナの町で花屋を営む庶民の娘として育った。緑の髪とターコイズブルーの瞳を持つ彼女は、その美しさとは裏腹に、人々から距離を置かれていた。その理由は、彼女がいつも長い前髪で左目を隠していたことにある。幼い頃、薔薇の花のトゲが指に刺さったとき、薔薇の花が突然灰色の石に変わるのを目の当たりにした。自分のせいで起きた異変だと気づいた瞬間、彼女の心に恐怖が宿った。以来、誰にも左目を見せぬよう静かに暮らしていた。
【悪夢の訪れ──魔物の襲撃】
ある日、ヴェルナの町に闇の軍勢が押し寄せた。彼らは人の姿を持たず、異形の怪物たちだった。黒く腐敗した皮膚と剣のように鋭い爪を持つ「影の獣」。炎の瞳と漆黒の鎧に身を包んだ亡者「屍の騎士」。大地を震わせる四つ足の「地獄の咆哮獣」。彼らは王国を滅ぼすための先遣隊であり、破壊と殺戮のみを目的としていた。町は炎に包まれ、人々は逃げ惑った。しかし、取り残された子供たちがいた。ルシアは震える体を奮い立たせ、子供たちを守るために立ち上がった。彼女は決意する──左目の封印を解くことを。髪をかき上げた瞬間、世界が青白く輝いた。左目が開かれたとき、魔物たちは悲鳴をあげ、その体は瞬く間に灰色の石へと変わっていった。町は救われたが、彼女は「魔女」として追放されてしまう。
【運命の邂逅──己の血を知る】
涙に暮れ、森の泉のほとりで膝を抱えていたルシアの前に、突如として光が降り注いだ。そこに現れたのは、白銀のペガサスに乗った騎士、古代神話の英雄クリュサオルだった。彼の姿はまるで神の遣いのように輝いていた。「ようやく会えたな、翠瞳の娘よ」驚きながらも、ルシアは彼のまっすぐな視線に射すくめられた。「お前の力は呪いではない。お前はメデューサの血を継ぐ者なのだ」その言葉に彼女は息をのんだ。クリュサオルは語り始めた。かつて、メデューサはただの怪物ではなく、強大な力を持つ一族の女王であったこと。クリュサオルとペガサスはメデューサから生まれ、その血は細々と受け継がれ、彼女こそがその末裔であることを。「お前の左目には、神々が授けた『守護の力』が宿っている。害をなす者を石化させる力だ。だが、長い時を経て、この力は忌むべきものとされ、継承者は滅ぼされてきた……お前を除いてな」彼女は自分が“呪われた魔女”ではなく、王国を救うために生まれた存在だと知った。クリュサオルは彼女に黄金の剣を授け、こう告げた。「王国に闇の軍勢が迫っている。お前の力とこの剣で、それを阻止せよ」ルシアは決意を固め、ペガサスの背に飛び乗り、王城へと向かった。
【決戦──王国の命運を懸けて】
王と謁見したルシアは、迫りくる魔物の大軍勢を伝え、自ら戦うことを誓った。やがて決戦の日が訪れた。彼女はペガサスに乗り、軍の先頭に立った。黄金の剣は太陽の光を受けて輝き、左目は蒼白い光を放っていた。闇の軍勢は彼女に襲いかかったが、一瞥を受けた者は石と化し、剣の一閃を受けた者は塵となって消え、全く近寄れなかった。王国の兵士たちは彼女の勇姿に奮い立ち、激戦の末、遂に闇の軍勢を打ち破った。
【帰郷──赦しと祝福】
戦いの後、ルシアはヴェルナの町へと戻った。かつて彼女を追放した村人たちは、彼女の姿を見た瞬間、恐怖ではなく深い後悔と敬意を抱いた。「許してくれ、ルシア……お前が私たちを救ってくれたのに……」彼女は静かに微笑んだ。もう、恐れられる存在ではない。こうして、ルシアは“翠瞳の守護者”として王国に名を残し、穏やかな日々を送ることとなった。この肖像画は、戦いから数年後、宮廷画家エリアス・グランデルによって描かれた。かつて彼女を魔女と呼び、彼女を追放してしまったことを悔やんだヴェルナの村人たちの願いにより、彼女は戦士としてではなく、馴染み深い花屋の娘としての姿で描かれている。かつて孤独に生きていた少女は、今や王国の象徴となった。しかし、彼女は再び花屋の娘として幸福に暮らし、その名を永遠に伝えるこの肖像は、王城の大広間に誇らしく飾られている。