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7月, 2025の投稿を表示しています

Mystique in Shadow #149: The Priestess of the Sealed Flame and the Unraveling Seal / 封炎の巫女と揺らぐ封印

封炎の巫女と揺らぐ封印 序章:残り火と囁き 休火山アルドゥインの麓、その静寂は神話の時代から続いている。かつて世界を焼き尽くさんと荒れ狂った炎の魔神インフェリアスが、その心臓たる地下深くに封じられて以来、山は深い眠りについていた。その山の懐に抱かれるようにして、炎の神殿は佇んでいる。風化した石柱、苔むした石畳。すべてが悠久の時を物語っていた。 神殿を守るのは、代々炎の神の血を受け継ぐ一族。そして今、その最も純粋な力を宿すのが、一人の娘、イグニシアだった。 十八歳の彼女の髪は、宵闇の紫と黎明の赤が溶け合ったような神秘的な色合いをしていた。燃え盛る炎をそのまま写し取ったかのような深紅のドレスを纏い、彼女が歩けば、まるで揺らめく焔そのものが動いているように見えた。 「イグニシア様!」 神殿に隣接する炎の村から、子供たちの弾む声が届く。イグニシアは神殿の階段を駆け下りながら、柔らかな笑みを浮かべた。彼女の周りには、いつも子供たちの輪ができた。 「見て、イグニシア様! 今日はこんなに大きな木の実を拾ったよ」 「すごいわ、リナ。後で少し火を通して、みんなで食べましょうか」 イグニシアがそっと手のひらを差し出すと、その中央に小さな青い炎が灯った。それは触れても熱くない、不思議な癒しの光。傷ついた小鳥を癒し、冷えた老人の手を温め、村の生活に欠かせない竈(かまど)に聖なる火を灯すための、優しき炎だった。村人たちは、彼女たち一族がもたらす火の恩恵に感謝し、収穫物や清らかな水を供物として捧げ、共存の関係を築いてきた。 子供たちと笑い合うイグニシアの瞳の奥には、しかし、誰にも見せぬ影が揺らめいていた。 あれはまだ、彼女が十にも満たない頃。村の子供たちと森で遊んでいた時、残忍な盗賊団が現れた。金品ではなく、子供たち自身を攫おうとする彼らの卑劣な笑い声を聞いた瞬間、イグニシアの中で何かが焼き切れた。 悲鳴と恐怖が、彼女の心の奥底に眠る荒ぶる神性を叩き起こした。世界から音が消え、ただ燃え盛る怒りだけが彼女を支配した。次の瞬間、彼女の小さな体から放たれたのは、夜空の星々を溶かし込むほどに純粋で、そして絶望的なまでに苛烈な蒼い炎だった。それは一瞬の閃光となり、盗賊たちの悲鳴すら飲み込ん...

Mystique in Grace #154: The Crimson Palace and the Gilded Heiress / 赤薔薇宮と金襴の姫君

  *** リアンナ・ソレイユ・フォン・エルドラード Lianna Soleil von Eldorado 生没年:太陽暦 856年 – 889年 身分:エルドラード王国 王女 王朝:ソレイユ朝 父親:アルフォンス4世 母親:エリザベート・ド・リューン 宗教:太陽神ソラル信仰 異名:「金襴の姫君」「最後の太陽」「暁の聖女」 --- 【概要】 大陸中央に栄えた黄金の王国、エルドラード最後の王女。亡国の悲劇を乗り越え、希望の象徴として伝説に名を刻む。後世、「暁の聖女」と神聖視され、その清廉にして慈愛に満ちた生涯は、数多の芸術作品の源泉となった。 【生涯】 太陽暦856年、豊かな魔力の大地に立つ王都ルミナシアに生を受ける。 王家に伝わる太陽神の加護を継ぎ、幼少より治癒と活性の微光魔術を操った。 才徳兼備の王女は、民から「金襴の姫君」と慕われた。 【亡国と幽閉】 太陽暦872年、北方の夜影帝国が侵攻。 その暗黒魔術の前に王都は3ヶ月で陥落し、両親は城内で自刃した。 王家の血統を政治利用せんとする帝国の思惑により死を免れたリアンナは、王城の温室を改装した小楼に幽閉される。そこは後に「旧赤薔薇園」と呼ばれた。 【覚醒と復興】 幽囚の日々、深い祈りの中で王家に伝わる“純光の秘術”に覚醒。 その光は闇を祓い、人々の心に希望を灯す力であった。 太陽暦875年、旧騎士団残党の手引きで小楼を脱し、南方の自由都市連邦へ亡命。 復興軍の旗頭となる。 離散した民と諸侯を糾合したリアンナは、自らも神聖魔法を手に戦場に立った。 その姿は「最後の太陽」と称され、各地の解放運動を誘発する。 太陽暦889年、「白銀平原の戦い」で旧王都奪還を果たすと、帝国の魔獣「夜の巨塊(ナイトゴーレム)」を純光の秘術で封じ、永き戦乱に終止符を打った。 【赤薔薇宮と肖像画】 赤薔薇宮は、エルドラード再興の象徴として、戦火に散った人々の記憶と流された血を決して忘れぬようにとの誓いを込めて、太陽暦889年にルミナシアの中心部に建立された記念聖堂である。 作者不詳の肖像画は、この聖堂の落成式で描かれたとされる。 金色のドレスを纏った姿は新たな時代の希望を象徴し、その輝きは太陽神ソラルの加護を宿すとされる。 本作品は現在、自由都市連邦王立美術館にて保管・展示されている。 【その後】 戦後、王位を辞退し、新設された「エルド...