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Mystique in Grace #195: The White Lily of Valentia / ヴァレンティアの白百合

 









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ヴァレンティアの白百合


第一章:白百合の眠る部屋

薄闇が支配する広大な城館の一室に、エリセリア・ヴァレンティアは座していた。真紅の絨毯が敷き詰められた床に、燭台の炎が微かに揺らめき、彼女の白い肌をぼんやりと照らす。

18歳と見まがうばかりの可憐な容姿は、まるで時間から切り離されたかのように永遠に変わることがない。華奢な身体を包む純白のドレスは、彼女の清浄な存在を際立たせ、そのしとやかな佇まいは、まるで花瓶に活けられた一輪の白百合のようだった。彼女は動かない。ただ、そこにいるだけなのだ。

ヴァレンティア家令嬢、名門貴族の末裔。それが世間におけるエリセリアの表向きの肩書である。だが、その真の役割を知る者は限られている。「霊体の牢獄(ソウル・シェルター)」、あるいは「静かなるエクソシスト」——彼女の存在そのものが、この世にはびこる悪霊や悪魔にとっての究極の罠なのだ。

第二章:錬金術師の血統

彼女の血筋は、遙か昔、賢者の石の研究に没頭した錬金術師、ヴァレリア・ヴァレンティアにまで遡る。伝承によれば、ヴァレリアは死の間際、自らの血肉に賢者の石を融合させようと試みたという。その秘められた血は代々密かに受け継がれ、やがてヴァレンティア一族は「生きる賢者の石」「祓う者」として生まれ変わった。

その力は世界の安寧のために使われる宿命を背負いながらも、一族の中で賢者の石の能力が発現するのはただ一人だけ。その者が世を去ると、次の世代へと力が継承され、不老長寿の運命が課される。

エリセリアは、その中でも最も強力な力を持って生まれた者だった。彼女は「何もしなくても霊が勝手に取り憑き、勝手に消えていく」という、驚異的な霊媒体質に至っていた。彼女に取り憑いた霊体は、その身の内にある「霊的消化作用」によって、まるで溶けるように分解され、彼女自身の“生気”として吸収されていく。それは、悪霊や悪魔にとって、存在そのものの“消滅”を意味した。

第三章:夜の訪問者

その夜も、城館には奇妙な「客」が訪れていた。漆黒の瘴気を纏い、見る者を凍てつかせるような悪霊が、震えながら扉をすり抜け、エリセリアの前に姿を現した。城館の者たちは慣れたもので、静かにその場を離れていく。

悪霊は、この清浄な娘を貪ろうと、ゆっくりとエリセリアに近づいた。その瞬間、エリセリアの閉ざされたまぶたの奥で、微かな光が宿る。

悪霊がエリセリアの身体に触れたその刹那、彼女の瞳が黄金に発光した。それは、周囲の闇を貫くような、しかしどこか柔らかな輝きだった。取り憑こうとした悪霊は、その輝きに驚愕し、身を捩って抵抗を試みる。だが、もはや手遅れだった。

エリセリアの身体から発せられる見えない引力に引き寄せられるかのように、悪霊の姿はみるみるうちにエリセリアの奥深くへと吸い込まれていく。抵抗する叫び声は、喉の奥でかき消え、やがて無音の世界が訪れる。

黄金の瞳の輝きが徐々に薄れ、やがて元のダークグレーの瞳に戻る。悪霊の痕跡は完全に消え失せ、闇に溶け込んだ。彼女の表情は常に穏やかで、何の感情も見て取れない。それは、数多の魂を吸収し続けてきた「霊体の牢獄」ゆえの、超越した平静さだった。

第四章:静寂の中の波紋

エリセリアの静かなる暮らしは、祓いを求める人々が訪れることで、時に波紋を呼ぶ。また、並のエクソシストでは手に負えないような強力な悪魔祓いの要請が、彼女のもとに舞い込むこともあった。

彼女自身は、己の血筋や能力、その宿命を悲観することなく、むしろ世界の安寧に貢献できることを前向きに受け入れていた。

第五章:地獄界の不穏

しかし、この数千年の間、地獄界では奇妙な謎が囁かれていた。人間界へと送り込まれたはずの下級悪魔たちが、次々と行方不明になるという事態が頻発していたのだ。エクソシストによって地獄に送り返されるでもなく、ただ忽然と姿を消す。

悪魔たちは常に争い、互いを出し抜こうとする者ばかりだったため、当初は「逃亡したのだろう」と軽く見られていた。

だが、ある地獄の君主が、自身の配下である強力な悪魔たちが相次いで戻らないことを不審に思い、徹底的な調査を命じた。そして、数千年もの時を経て、ついに恐るべき真実が明らかになった。

彼らはエリセリア・ヴァレンティアという一人の人間の娘に取り憑いた後、祓われるでも、地獄に送り返されるでもなく、完全に消滅しているのだと。

ようやく、悪魔たちはこの人間界に存在する「霊体の牢獄」の恐ろしさを理解し始めた。彼らは長きにわたる争いを一時的に止め、エリセリアという脅威に対処するため、連携を始めたのである。

静かなるエクソシスト、エリセリア・ヴァレンティアの運命は、今、新たな局面を迎えようとしていた。

第六章:肖像画の記憶

ヴァレンティア城館の最も奥まった場所に、エリセリアの肖像画が飾られている。それは、彼女が18歳になり、先代の能力者が世を去り、自らの能力が発現し、その宿命を受け入れた日に描かれたとされている。

肖像画の中のエリセリアは、金色の瞳を輝かせながら、柔らかく微笑んでいた。その表情には、すべてを覚悟し受け入れた深淵な受容、そしてこの世界に貢献せんとする決意と、わずかな希望の光が混じり合っているように見えた。

彼女の背後には、絵の具で描かれたとは思えないほどの深い闇が広がっている。それは、彼女の中で分解され、消えていった数多の悪霊や悪魔たちの魂を象徴しているかのようだった。

そして、身に纏うドレスは、清浄な魂と、その宿命への揺るぎない誓いを表現している。

この肖像画は、エリセリア・ヴァレンティアという存在のすべてを語っていた。彼女は、ただそこにいるだけで、世界の秩序を守り続ける。その静かで、しかし絶大な力によって。


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